開催概要
戸谷成雄(1947-・長野県上水内郡小川村生まれ)は、日本の現代彫刻を代表する存在として、「彫刻とはなにか」を問う根源的な思索を深めながら、精力的に作品を発表しています。長野県での初めての個展となる本展では、戸谷成雄の初期から近年の作品まで代表作を含め約 30 点を、 年代順ではなく展覧会のコンセプトに合わせて展示します。特に戸谷の壮大な彫刻観へのいとぐちとして、「表面」や「構造」といった独自の彫刻概念に、日本語の言語構造への深い思索が反映されていることに焦点を当てます。この思索は、戸谷自身の言葉にしばしば表明されてきましたが、作品を目の前に語られる機会はあまり多くありませんでした。日本の社会について戸谷が常に抱く問題意識は、言語学や人類学の方法論をもちいて社会の構造のありかたを問うという、世界的な思想のながれに合致し、彫刻家自身の彫刻概念と共振しました。
1980 年代半ばから始められた「森」シリーズに見られるように、チェ ーンソーで木材の表面を刻んだ大型の木彫作品がよく知られていますが、作品の基本的な考え方は、戸谷が彫刻家をこころざした 1970 年代にすでに形成されました。当時、国内外で展開されていた現代美 術では、旧来の絵画や彫刻が事実上否定され、美術そのものの在り方が問われていました。戸谷はいわゆる制度として解体された彫刻を、 時代や地域の枠を乗り越え、その起源から見つめ直しています。