開催概要
静謐な抒情性を湛えた風景画により、戦後の日本画壇で高く評価され、今なお多くの人々の共感を得ている日本画家・東山魁夷(1908-1999)。長い画業のなかで、風景との真摯な対話を積み重ね、日本的な自然観に裏打ちされた唯一無二の心象風景を確立しました。このたび、東山の記念碑的大作である、律宗の総本山、奈良・唐招提寺御影堂の障壁画全68面を一堂に展示します。1971年(昭和46年)から10年もの歳月をかけて制作された本障壁画には、幾多の困難を乗り越えて中国から来日し唐招提寺を開いた鑑真和上への讃仰と崇敬の念を込めて、日本の理想的な自然としての海と山、鑑真和上の祖国である中国の風景が描かれました。
本展では、通常非公開となっている本障壁画を、部分的に御影堂を再現してご紹介するほか、この祈りの風景を構成するために、東山が日本や中国の各地で重ねた取材の軌跡を、当館所蔵のスケッチや下図などから辿ります。あわせて、唐招提寺御影堂障壁画への道程を示す重要な当館所蔵作品の数々を展示します。
唐招提寺御影堂障壁画に取り組むかたわら制作された連作「白い馬の見える風景」から当館の所蔵する全作(本制作4点・習作15点)、障壁画の構想段階でめぐった、奈良・大和路を題材とする連作「大和春秋」、障壁画の水墨表現のためのたゆみない研究の道程である《桂(けい)林(りん)月夜(げつや)》(1976年)・《黄山雨過(こうざんうか)》(1978年)・《灕(り)江(こう)暮色(ぼしょく)》(1978年)など、障壁画をめぐる東山魁夷の深い思索をご堪能ください。